2009年2月8日日曜日

梅太@ 劇場:『ベンジャミン・バトン 数奇な人生』

この記事は 梅太 の名の下にお送りいたします

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「あいかわらず時は経っていく―これは世界で一番古い芸当で、ひょっとしたらたったひとつの本物の魔法かもしれない」
  『刑務所のリタ・ヘイワース』-スティーブン・キング

●年をとるごとに体が若返る奇妙な人生:『ベンジャミンバトン 数奇な人生
 監督はディビット・フィンチャー
 主演にブラット・ピットケイト・ブランシェット
 あまり出演時間は多くないけど、ティルダ・スウィントンも出演。

 同じ作品で、ケイトとティルダが観れるなんて・・・こんな贅沢なことがあって良いのだろうか。

 上映時間は167分とかなり長めで、事実トイレに立つ人もチラホラいらっしゃいました。
 でもそれだけの上映時間が許せる、というより大満足の作品でした。

 以下、若干のネタバレを含むかもしれませんが、鑑賞する上で恐らく差し支えは無いかと思います。



 ~~~ ストーリー:台詞の一つ一つを刻んでおきたい ~~~

 主人公は、ある富豪の夫婦の間に、老人の体でこの世に生まれ出た男の子:ベンジャミン(ブラット・ピット)。
 ベンジャミンは普通の人とは違い、年をとるごとに若返っていく奇妙な生体をしていた。
 周りは年老い、自分は若返る。様々な人と、様々な生死を体験したベンジャミンの行き着く先とは・・・

 筋書きとしてはこのようなもの。

 特に大きな出来事が起こるわけでもない本作。
 では何が素晴らしいのかといえば、この設定だからこそ活きてくる台詞。

 特に印象的であった3つをご紹介。


 ベンジャミンの育ての母クイニーが発する言葉。

 「行き着く先は同じ、通る道が違うだけなのよ」

 人とは違う成長を辿るベンジャミンですが、生き物として生まれたからには、行き着く先は”死”である。
 普通の人と同じなのです。悲しいけれど。
 これは何も、普通の人とベンジャミンを対比して言ってるわけではなく、この世のすべての人に当てはまる台詞。
 ラストのナレーションにもあるように、世の中には色々な人がいる。しかし最後は同じなのです。

 ベンジャミンとデイジー(ケイト・ブランシェット)がお互いに40歳代に突入し、バレエ教室で会話をするシーン。

 「やっと追いついた」

 ベンジャミンは若返り、デイジーは年老いる。その中間点が40代。この時はベンジャミンも等身大の人間である。
 ここで魅せる二人の演技が、とても素晴らしい。

 「残念だな。永遠のものがないなんて」

 人それぞれの時間の進み方がキーとなる本作で、やはりこの台詞は重くのしかかる。
 体内時計が順周りする普通の人、逆周りするベンジャミン。でも”時が止まることなく進んでいる”ことに違いはない。
 でも永遠のものがないからこそ、今この瞬間が美しい。
 この台詞を発するベンジャミンの、哀愁漂う表情がなんともいえなかった。


 他にも沢山あるのですが、挙げているとキリがなくなる。
 台詞集か何かを出版してほしいほど。
 恐らくそんなものはないだろうから、DVDが出たら自分で作ります。


 ~~~ 演出:あぁ、”映画”してる! ~~~

 日常生活では考え付かないようなシーン、設定としてはありふれているけどその映画独特の演出がなされているシーン等を見ると、僕は「おぉ、”映画”してるな」と呟いてしまう。
 そういうものに出会えるからこそ、映画を観るのをやめられない。

 本作には、そういうシーンが沢山ある。
 上に書いた「台詞集」とともに、シーン集を出版してほしいほど。
 恐らくそんなものはないだろうから、DVDが出たら自分で作ります。

 この作品では、冒頭から「お!」と思わせてくれた。つまり、エンジンがかかるのが早かったということ。

 冒頭は、物語には直接関連してこない、ある時計屋の話が語られる。
 新しく出来た駅に、大時計を寄贈した男の話。

 この男は最近、戦争で子供を亡くした。そのことを考えないように大時計作りに没頭する。
 お披露目の日。そこには町民、そして大統領まで訪れる。

 時計の電源が入る。
 しかし時計の秒針は、逆周りに動くではないか。
 男の言い分はこうである。
 「時間が逆に進めば、この駅から戦争に旅立った若者たちが帰ってくるかもしれない。」

 このスピーチは、それはそれで素晴らしかった。
 しかし僕が感動したのは、時計の電源が入り、最初の一秒を刻んだ瞬間だった。

 逆向きに、一秒進む秒針。

 ここで思わず鳥肌が立ってしまった。
 非常に細かいシーンではあるのですが、「普通とは逆の成長をしていく男の話」の出だしとしては最高のものではないでしょうか。

 他にも、赤いドレスでバレエを踊るケイト・ブランシェットのシルエットが素晴らしかったりとか、挙げればキリがない。
 キリがないから、あと1つだけ、やはりはずせないラストシーンを紹介します。

 ラストは、ベンジャミンのナレーションで幕を閉じる。

 「この世には、様々な人がいる。ピアノを弾く人、雷に打たれる人、シェイクスピア好き、お母さん、ダンサー・・・」

 これは先にも述べたように、「到着点は同じであるけれど、通る道はそれぞれ違う」という意味合いであると思う。
 様々な人がいるのだ・・・と。
 そして最後に、駅に飾られた逆周りの大時計が写される。台詞はない。
 つまり「普通とは逆に成長していく人もいる。到着点は同じだけどね」ということだ。

 約3時間に及ぶ作品を、キュっと締める素晴らしいラストでした。



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 良い作品だ。
 本当に良い作品。

 大きな感動というよりも、ひっそりと静かに噛み締めたい作品。

 もう一回観てもいいなぁ。

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