この記事は 梅太 の名の下にお送りいたします
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「ただ、他人を傷つけることをしないだけで十分なんだよ。そのほうが完璧さを求めることよりもずっとやさしい」
- 『アミ、小さな宇宙人』エリンケ・バリオス
●青年の為の、町民の優しい嘘『ラースとその彼女』
監督はグレイグ・ギレスピー。
リアルドールに恋する青年を、ライアン・ゴスリングが熱演。
もともと見ようとは思ってましたが足が向かずに年を越す。
『ヘルボーイ2』が博多でしかやらないので、そのついでに観てきた次第です。
素晴らしい。
正直な話、『ヘルボーイ2』の興奮は、すべてこれに持っていかれた気がします。
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~~~ Real(本物・現実)って何だろう ~~~
人からの関わり(特に女性)を避けながら生きてきた青年:ラース(ライアン・ゴスリング)が、突然兄夫婦に「人を紹介する」と言う。
その女性はなんと、精巧に作られたドール(名をビアンカという)であった。
頭が狂ってしまったのか・・・当然そう思った兄は、医師に相談する。しかし医師は「彼に話を合わせるのよ」と言い出す。
しかしそれは、ラースが何故そうなったかをいち早く察知した医師の、理由ある対応であった。
そしてその嘘は、次第に街全体を巻き込んだものとなっていく。すべては、心優しいラースの為に・・・
筋書きはこんなところ。
さて、このお話を見ていて考えたことがある。それは「real」とは何だろうということ。
現実かそうでないか、というのは、結局のところ”自分が”意識するかしないかである。
地球上に確かに存在するものでも、自分の五感で感知できないものは、それは自分の中では現実とは言えない。
昔、誰もがやったであろう人形遊び。人形は生きていないが、そこには自分で作り上げた”real(現実)”の設定がある。
人形社会とでも言おうか。
対象が生きているか生きていないかは関係ないのである。
自分が作り上げた世界の中では、確かに生きているのだから。
さて、この作品にでてくるビアンカは生きてはいない。
しかしラースと、その周りの人たちが作り上げた”現実”の中では、彼女は生きているのだ。そういう設定なのだ。
彼らは五感で、ビアンカを感じているから。
今、五感で感じているものこそ、現実なのだ。
この作品の物語の進め方には舌を巻く。
”人形と暮らす”なんて、実際にあったら奇異の目で見てしまうが、スクリーンに映し出されたら笑うしかない。掴みはバッチリ。
そして街の人がビアンカを受け入れていくと、観客である僕たちも「ビアンカは一人の人間」として捉えられるようになっていることに気付く。
この運び方が実に見事で、ビアンカの葬式のシーン(人形だけど葬式はするのです)では、思わず泣いてしまった。
~~~ 人間と人形の共演・好演 ~~~
この作品では、ライアン・ゴスリング演じるラースと、リアルドール演じるビアンカの共演シーンが長い。
勿論ビアンカは人形であるから話すはずはなく、すべてライアンの一人演技である。
笑わないわけないじゃない。
そしてウマすぎる。ビアンカが本当に言葉を発したように演ずるのである。
またライアンの、人と接するのが苦手(人と接することに恐怖すら感じてるかもしれない)という演技もすごい。
ライアンさんの新境地。
あとはラースの義姉:カリンを演じたエミリー・モーティマー。
この人観てると、何か安心するなぁ。
そしてビアンカの存在。
リアルドールを彼女に・・・兄には本当にイカれたのかと思われる。
でも本編を見てもらえればわかるように、ラースには気になる女性がいて、いつもその人のことをチラチラと見ている。
また義姉に対しては、素っ気無いが妊娠中の彼女をひたすらに気遣う。
ラースは別に、”妄想癖”というわけではなかったのではないか。
ラースには、恐怖と言える程、人間との関わり、特に女性との関わりが苦手だった。
(それはラースの過去にヒントがある)
それがビアンカがキッカケで、色々な人と接することが出来るようになる。
例えば僕たちも、よく知らない誰かと接するとき、気心の知れた人がついていてくれると、どこか安心しないだろうか。
つまりビアンカは、ラースにとって誰かとうまく関わるための、潤滑油だったのかもしれない。
~~~ 小さな一歩 ~~~
舞台は冬。外も内も凍り付いているラースの元へ、一人の女性:ビアンカがやってくる。
その彼女と過ごすうち、春は徐々に近づいてくる。
そしてビアンカの死と、春の訪れ。
ラースは少し、大人になったのかもしれない。
「少し歩く?」
ビアンカの葬式後に、会社の女性:マーゴに発した言葉。
ラストのラースの台詞である。
この一言の裏にある、ラースが踏み出した小さな一歩。
エンドロールが流れ始めた瞬間、僕は思わず涙した。
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素晴らしい作品。
是非見て欲しい。
09年はまだ始まったばかりだけれど、こんなに素晴らしい作品に出会って良いものだろうか。
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