2009年1月12日月曜日

梅太@ 劇場:『ラースと、その彼女』

この記事は 梅太 の名の下にお送りいたします

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 「ただ、他人を傷つけることをしないだけで十分なんだよ。そのほうが完璧さを求めることよりもずっとやさしい」
  - 『アミ、小さな宇宙人』エリンケ・バリオス


●青年の為の、町民の優しい嘘『ラースとその彼女
 監督はグレイグ・ギレスピー。
 リアルドールに恋する青年を、ライアン・ゴスリングが熱演。

 もともと見ようとは思ってましたが足が向かずに年を越す。
 『ヘルボーイ2』が博多でしかやらないので、そのついでに観てきた次第です。

 素晴らしい。

 正直な話、『ヘルボーイ2』の興奮は、すべてこれに持っていかれた気がします。

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 ~~~ Real(本物・現実)って何だろう ~~~

 人からの関わり(特に女性)を避けながら生きてきた青年:ラース(ライアン・ゴスリング)が、突然兄夫婦に「人を紹介する」と言う。
 その女性はなんと、精巧に作られたドール(名をビアンカという)であった。
 頭が狂ってしまったのか・・・当然そう思った兄は、医師に相談する。しかし医師は「彼に話を合わせるのよ」と言い出す。
 しかしそれは、ラースが何故そうなったかをいち早く察知した医師の、理由ある対応であった。
 そしてその嘘は、次第に街全体を巻き込んだものとなっていく。すべては、心優しいラースの為に・・・

 筋書きはこんなところ。
 
 さて、このお話を見ていて考えたことがある。それは「real」とは何だろうということ。

 現実かそうでないか、というのは、結局のところ”自分が”意識するかしないかである。
 地球上に確かに存在するものでも、自分の五感で感知できないものは、それは自分の中では現実とは言えない。
 
 昔、誰もがやったであろう人形遊び。人形は生きていないが、そこには自分で作り上げた”real(現実)”の設定がある。
 人形社会とでも言おうか。
 対象が生きているか生きていないかは関係ないのである。
 自分が作り上げた世界の中では、確かに生きているのだから。

 さて、この作品にでてくるビアンカは生きてはいない。
 しかしラースと、その周りの人たちが作り上げた”現実”の中では、彼女は生きているのだ。そういう設定なのだ。
 彼らは五感で、ビアンカを感じているから。

 今、五感で感じているものこそ、現実なのだ。

 この作品の物語の進め方には舌を巻く。
 ”人形と暮らす”なんて、実際にあったら奇異の目で見てしまうが、スクリーンに映し出されたら笑うしかない。掴みはバッチリ。
 そして街の人がビアンカを受け入れていくと、観客である僕たちも「ビアンカは一人の人間」として捉えられるようになっていることに気付く。
 この運び方が実に見事で、ビアンカの葬式のシーン(人形だけど葬式はするのです)では、思わず泣いてしまった。


 ~~~ 人間と人形の共演・好演 ~~~

 この作品では、ライアン・ゴスリング演じるラースと、リアルドール演じるビアンカの共演シーンが長い。
 勿論ビアンカは人形であるから話すはずはなく、すべてライアンの一人演技である。
 笑わないわけないじゃない。
 そしてウマすぎる。ビアンカが本当に言葉を発したように演ずるのである。
 
 またライアンの、人と接するのが苦手(人と接することに恐怖すら感じてるかもしれない)という演技もすごい。

 ライアンさんの新境地。

 あとはラースの義姉:カリンを演じたエミリー・モーティマー
 この人観てると、何か安心するなぁ。

 そしてビアンカの存在。

 リアルドールを彼女に・・・兄には本当にイカれたのかと思われる。
 でも本編を見てもらえればわかるように、ラースには気になる女性がいて、いつもその人のことをチラチラと見ている。
 また義姉に対しては、素っ気無いが妊娠中の彼女をひたすらに気遣う。
 ラースは別に、”妄想癖”というわけではなかったのではないか。

 ラースには、恐怖と言える程、人間との関わり、特に女性との関わりが苦手だった。
 (それはラースの過去にヒントがある)
 それがビアンカがキッカケで、色々な人と接することが出来るようになる。

 例えば僕たちも、よく知らない誰かと接するとき、気心の知れた人がついていてくれると、どこか安心しないだろうか。
 つまりビアンカは、ラースにとって誰かとうまく関わるための、潤滑油だったのかもしれない。


 ~~~ 小さな一歩 ~~~

 舞台は冬。外も内も凍り付いているラースの元へ、一人の女性:ビアンカがやってくる。
 その彼女と過ごすうち、春は徐々に近づいてくる。
 そしてビアンカの死と、春の訪れ。
 ラースは少し、大人になったのかもしれない。

 「少し歩く?」

 ビアンカの葬式後に、会社の女性:マーゴに発した言葉。
 ラストのラースの台詞である。

 この一言の裏にある、ラースが踏み出した小さな一歩。

 エンドロールが流れ始めた瞬間、僕は思わず涙した。

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 素晴らしい作品。
 是非見て欲しい。

 09年はまだ始まったばかりだけれど、こんなに素晴らしい作品に出会って良いものだろうか。

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